ズーミングユーザインタフェース(ZUI)と呼ばれるインタラクション手法の研究が流行したことがある。 1993年、 無限にズーミング可能な二次元画面を利用して情報管理を行なえる Pad というシステムをニューヨーク大学の Ken Perlin が ACM SIGGRAPH で発表したのが契機となり、 パソコン画面上での新しいユーザインタフェース手法を模索していた多くの研究者が 「ポストWIMP」の最有力候補としてZUIに期待したものである。 (WIMPとは Window / Icon / Menu / Pointing deviceを用いる 一般的なグラフィカルインタフェース手法のことである)
ZUIには様々なメリットがある。
- 無限に画面をズームして情報を書き込むことができるので無限に大きな情報を扱うことができる
- 階層型に管理された情報は簡単に画面上に配置することができる。 たとえばディスク内のフォルダを画面上の矩形で表現し、 そのフォルダに含まれるファイルやフォルダはその矩形内の小さな矩形で表現するという単純なレイアウト方式を採用するだけで、 あらゆるファイルを画面上に並べて表示ことができる。
- ズーミング操作は可逆的である。 ズームイン操作と完全に逆の操作でズームアウト操作を行なうことができるので、 容易にundo操作を行なうことができる。
私もZUIの考え方は大変気に入ったので、 上の写真の「奈良観光ガイド」のような視覚化/検索システムを同僚と一緒に開発してみた。 これは1995年にSGIのワークステーション上で作った「WING」というシステムで、 マウスの左右ボタンを利用したズーミング操作だけで 三次元地図を動かしたり地名や店名などを検索したりすることができる。 CやOpenGLのような標準的なシステムを利用しているため、 20年近く前のシステムであるにもかかわらず現在のMac上でビルドして動かすことができる。 ソースコードを GitHub に置いてあるので、 Macでビルドして実際に使ってみることができる。
さて、期待されたZUIであったが、 結局WIMPを置き換えることはできず、 商品化の計画はすべて失敗したようだし、 現在ZUIを日常的に使っている人はほぼ皆無だと思われる。 ZUIが流行らなかった理由は以下のようなものであろう。
- ズーミング可能な巨大な平面のどこに何を置いて管理すべきか考えるのは骨が折れる
- データが存在しない場所でズームイン操作を行なうと画面が真っ黒になり、 自分がどこにいるのかわからなくなってしまう
- ファイル管理のような仕事はWIMPでもできるので、 苦労して新しい方法に以降するメリットが無いと思われた
- ズーミングに適したインタラクション手法が存在しなかった (マウスの中ボタンのホイールのようなものは普及していなかった)
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